書評「もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」」

たまにはサイエンティフィックな書籍の紹介をしたいと思います。
本日の書評の対象は「もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」(R・ダグラス・フィールズ)」です。

話は解剖学者がアインシュタインの脳をスライスし、氏の秀でた思考能力・想像力の源を科学的に明らかにしようとしたことから始まります。

あの尋常ならざる数理的思考を有した氏の脳は、普通の人とは異なる点があると考え、それを明らかとしようとしたからです。

しかしながら、脳神経の数・大きさ・その構造的特徴などは、いずれも普通の人の脳みそと比べて顕著な変化はありませんでした。

そう、神経においては。

 

解剖学者たちは詳細な観察より、脳神経以外において、一般の人とアインシュタインの脳は著しく異なる点を発見しました。

神経ではないではない細胞の数が、脳の4領域全てにおいて、アインシュタインの脳は一般人のそれと比較して、群を抜いて多かったのです。

定量すると、一般人の2倍の数ほど、アインシュタインの脳は神経ではない細胞を有していたとのことです。

その「神経ではない細胞」とは、すなわち 本書のタイトルでもある「グリア細胞」なのです。

(脳において、グリア細胞は、アストロサイト・ミクログリア・オリゴデンドロサイトの3種類が、網膜においてはアストロサイト・ミクログリア・ミュラー細胞の3種類が存在します)

 

このグリア細胞、日本語に訳すと「膠細胞」という一見訳の分からない日本語が当てられます。

グリア細胞の名前の起源はneuroglia(神経膠細胞)で、ラテン語で「神経細胞の接着剤」を意味します(この日本語のせいでグリア初学者はグリアの理解に苦しみます笑)。

すなわち脳の8割以上を占める細胞でありながら、あくまでグリア細胞は、神経細胞を物理的に指示する接着剤的な因子、せいぜい神経細胞に多少の栄養因子を送っているだけの細胞と考えられていました。

そのグリア細胞が、神経細胞と相互作用しながら脳の様々な活動に関わり、また 脳腫瘍などの病態において悪役に転じたりする様子が記載されており、

脇役から一点、主役に躍り出たかのような、小説的な面白さを堪能できます。

 

本書ではこのグリア細胞に焦点を当てて、 様々な豊富な事例が紹介されています。

そのタイトル・内容・本の厚みから圧倒されますが、本書は決して専門書のジャンルに該当せず、一般の方でもわかりやすいように様々な判例を用いて解説しています(そこはさすがブルーバックスだなと)。

グリア細胞は私の研究対象でもありますが、本書を読み、ここ20年程度で爆発的に研究が進み、知見が蓄積された分野なんだと初めて知りました。

 

研究者の日常生活に「論文を読み漁る」というタスクが組み込まれています。新しいものは当然チェックしますが、リファレンスをたどって20年前30年前の論文を読むことも少なくありません。

その際に気になるのが、論文の対象で、新しいものはグリア細胞を対象としているか、神経細胞を主軸に置いているもののグリア細胞等にも触れています。

一方で、1970年ぐらいの論文ですと、グリア細胞の名前はほとんど見受けられません。

生命科学の研究というのは、本当にここ最近のIT機器類の進化によって爆発的に済んだものなんだと改めて実感します。

また、 世界中の研究者らによる「神経ー グリア」の研究事例が多分に紹介されており、研究というものは、世界中の研究者らによるニューラルネットワークでひとつひとつ前進していくものだということも改めて実感しました。

大変おもしろい本なのですが、惜しむらくはその本の分厚さ… 一瞬、購入をためらいます…^^;

しかしながら、その一瞬の躊躇を乗り越えて読む価値はあるかと思います。

 

もし本を読むのが難しいと感じた方、以前に紹介しました「kindle版を購入し、iPhoneで読み上げる」という技を使えば、オーディオブックとして聞けるので、 Kindle 版を購入した方が良いかもしれません。

神経科学の研究者はもちろん、グリア細胞についての研究をし始めた方や、科学を専門としないものの脳や神経に興味のある方にもおすすめできる一冊です。

 

関連記事

  1. 生産性をアップさせる3つの心得 -能動的ピンチのススメ-

  2. インフルエンザで熱が下がらないときの対処方法は? 漢方薬のススメ

  3. 世界初のiPS臨床研究、患者網膜に有害現象 医師「手術法の問題で因果関…

  4. 人に言いにくい胃腸の悩み 下痢に効果的なサプリメントとは?

  5. 書評「あなたはなぜ値札にダマされるのか?」不合理な意思決定を下す7つの…

  6. 書評「まず、ルールを破れ―すぐれたマネジャーはここが違う 」

  7. 書評「動画2.0 Visual Story-telling 」

  8. 医学系出版社 この4点で入社を決めろ

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

最近の記事

アクセスの多い記事